近場にある美しさ: 五感で楽しむおすすめ台北ツアー
文=Rick Charette 編集=下山敬之 写真=Yenyi Lin, Taiwan Scene, 台北市政府文化局, 草率季
李さんにはビジョンがあり、それを実現することが使命です。彼は地元の出版業界、慈善事業団体、芸術とデザイン業界から尊敬されています。その努力によって台北や台湾全体のコミュニティは日々拡大していて、彼の名前は「良き市民、人付き合いの良い人」の同義語になりつつあります。
TAIPEIはMRT南京復興駅近くにある「森3 SUN SUN Museum」で李さんと対談し、彼のビジョンと使命についてお話を伺いました。コミュニティ構築は「The Big Issue Taiwan」の事業におけるコアで、彼の夢は仲間たちの日常的な瞬間の中に「美しさ」という固有の要素を作り出すことだそうです。例えば森3 SUN SUN Museumのように李さんが支援するクリエイターが近隣のコミュニティに美的な生活をもたらすこともその一つです。また、海外から来る旅行者に充実した旅行プランを提案するために、台北の個性がこの十数年でどう変化したか、そして台北の本来の特色を把握しようとしています。
大きな構想
李さんのビジョンを一言で表すなら、それは「コミュニティ」です。「大都市は巨大でせわしない生体構造をしていますが、人々の生活は原子的です」と彼は話します。私たちは普段隣人とさえ交流しないことから、空気中の原子のように忙しなく動きながらも何の繋がりもないのが現状です。そのため、李さんは出会った人たちを思いやる連帯感を台北や台湾全土で生み出したいと考えています。
李さんは台湾南西に位置し、台北よりも比較的静かな都市である台南で育ちました。そこには彼が見失った連帯感が残されています。プレッシャーの中を生き残った台北独自の特色には大きな可能性があると李さんは考えていて、「台北は他のアジアの都市と違い制限がなく、どんなことでもできます」と教えてくれました。
この「コミュニティ」の概念をさらに広げることで、地域社会にも人生の美しさをもたらすことが李さんの願いです。また、現代は物質主義という考え方によって、美しさや美的な感性が日々の生活から失われています。そのため、自然の美しさに触れようと登山をしたり、同じ価値観を持つ人たちが創り出した作品を見に博物館や劇場へ足を運びます。しかし、彼の願いは、生活圏の中で音楽や演劇、芸術作品に触れ、そうした体験が周囲の人たちに共有されるということです。李さんは人々が「聞く、見る、匂う、触れる、味わう」という行動から「美しさ」という固有の要素を作り出す方法を学ぶ手助けをしています。その一貫として人生を一つの芸術品ととらえたり、「コミュニティ」の世界観を受け入れる、周囲の人で人生に美しさを感じる人の世話をしています。
未来の使命
李さんは「The Big Issue Taiwan」をビジョン実現のために活用しています。この雑誌はジョンバード氏(John Bird)とザ・ボディショップ(The Body Shop)の創業者アニータロディック(Anita Roddick)、ゴードンロディック(Gordon Roddick)夫妻が共同で創刊したイギリスの雑誌の台湾版です。台湾在住の外国人作家を通じ、海外のライフスタイル、芸術、文化、デザイン、テクノロジー、ビジネスといった斬新なアイデアを台湾の読者に紹介しています。
雑誌のコンセプトである「地域社会、良き市民、人付き合いの良い人」に従い、販路開拓は主にホームレスや社会的弱者の人たちを雇い研修しています。総売上の半分は彼らによるもので、主に台北のMRT駅付近で販売をしています。売り子は野球帽にグレーのバッグという格好で、黄色のベストも着ます。
李取中さんの「台北五感ツアー」
本誌は台北在住の駐在員や海外旅行者向けに旅行ガイドを作ってもらえないか李さんに依頼しました。おすすめのスポットや台北の特徴を「五感」を使って紹介してもらいましたので、ぜひ実際に訪れてみましょう。
聞く(HEARING)
「まずは台北を拠点に幅広く活動し、非常に高い評価を得ている歌手・LEO王(レオ・ワン)の音楽を体験しましょう。音楽は実際に聞かなければわからないので、そこは旅行の宿題です。なぜ「聴覚」から始めるかというとLEO王の経歴と音楽には台湾の精神が要約されているからです。台湾の人々と同じく彼の音楽は自由です。クリエイティブな表現は地域によって型がありますが、台北にはそうした「偽り」のクリエイティビティがなく、自由で制限がないので自分の価値観にあったものが探せます」。
LEO王は、無限の可能性を持つ台湾の芸術的創造性に感謝していて、「台湾にいることは非常に恵まれたことであり幸運なことです。アーティストとして作りたいと思ったものはどんなものでも創造していきます」とコメントしています。李さんは、人と文化的影響が交わる地理的な位置関係と辺境の地と見られていた過去、アメリカ西部のように強く個性的な精神と他人に対する寛容性を持っていたことが、現在の台湾人の個性につながっていると李さんは考えています。
「聞く」という現象は10年以上前にライブミュージックが屋内から屋外へと持ち出されたことで多くの人に受け入れられたと李さんは話します。中でも台湾最大の音楽イベント台北ジャズフェスティバルはおすすめだそうです。メイン会場の一つである大安森林公園では、今年の10月25日から27日にかけてライブコンサートが開催されます。主催者側も恭碩良(ゴンシーリャン)や張為智(ジャンウェイジュー)などの国際的なミュージシャンと地域を組み合わせることで参加者を喜ばせようとしています。
見る(SIGHT)
「台北は数十年に渡り、都市再生運動の全国的なリーダーを担っていて、政府が建物の改装を支援し、文化の創造を事業とする企業が運営することで文化遺産の保存と地域の自立を促しています。特に大稲埕(ダーダオチェン)や迪化街(ディーホアジェ)にある大藝埕(ダーイーチェン)がおすすめスポットです」。
大藝埕ブランドの1つである小藝埕(シャオイーチェン)は、都市再生のために100年前の建物を改修したことで知られています。この建物はかつて、西洋の薬を輸入した台湾初の薬局でした。
最近、路上の小規模なアートスペースに作品を並べることで、最新の現代アートやデザイン、考え方に触れようと地元の人たちが立ち寄ります。前述した森3 SUN SUN Museumもその例の一つです。
森3 SUN SUN Museumは、閑静な住宅街にある2軒の住宅を利用し、オープンコンセプトの展示スペースにしました。正面デザインは床から天井までガラス張りにし、日光と通りを歩く人を誘い込む設計になっています。展示される作品のテーマは縛りがなく、本誌執筆時点では蛾の美しさを探求した作品が展示されていて、今後は音楽が個人の生活にもたらす美しさを祝いたいというミュージシャンと提携予定です。
李さんと「The Big Issue Taiwan」は、今年の10月18日から20日に松山文創園區(ソンシャンウェンチュアンユェンチュー)で開催される台北草率季(ツァオシュアィージー)の支援も行っています。参加者するのはインディー出版社などの個人雑誌の製作者、アートギャラリー、アートグループなどで、展示スペースの約半数を海外企業が占めています。このイベントでは台湾の人たちに向けてたくさんの新しいアート作品やデザインフードが提供されます。
匂う(SMELL)
「どうすれば嗅覚を使って台北を知ることができるかと聞かれたら、伝統的な生鮮食品市場を思い浮かべます。世代を超えて少しずつ変化し、より高い衛生基準や明るい照明、社交辞令のある現在の市場に触れることができます。そこには食材や調理された食品と何世代にもわたって家族で経営されてきた屋台が並んでいます。特に私は東門市場(ドンメンシューチャン)によく行きます」。
日本時代(1895〜1945)には不規則に広がる露店を管理するために、西門、南門、東門という3つの門の外側に市場が設置されました。中でも東門市場は昔ながらの香りを残した独特な街として発展しました。多くの観光客に印象を与えるのは、とれたての野菜や果物の新鮮な香りですが、海鮮のお店からは磯の香りが漂います。李さんは有名な御園坊(ユーユェンファン)というお店を訪れ、パクチーと豚ひき肉で作った水餃子を注文します。水餃子は冷凍販売されており、煮た際のジューシーな肉汁の香りがたまらないそうです。
触る(TOUCH)
「私はよくジョギングをしますが、台北には魅力的な運動スペースがたくさんあり、特に大安公園や川沿いにつながる公園がおすすめです。コンクリートに足をつけて街に触れながら走ることで、その周辺のことがわかります」。
この十年あまり、台北は体系的歩道の拡張や舗装を行うことで、早朝と深夜の時間帯に静かな「都会の小道」を作ったと李さんは話します。ジョガーや長距離を歩く人たちは、そこに住む人たちが次の日の準備をしたり、仕事を終えて帰宅する姿や休憩をしている光景を見ることができます。
李さんのお気に入りルートは、「台北の肺」として知られている大安森林公園を回ることから始まり、その後は信義路(シンイールー)や仁愛路(レンアイルー)に沿って二二八和平公園に向かいます。そして、1919年に日本時代に建てられた總統府(ゾントンフー)を夜の美しさとともに眺めます。
速いペースで歩きたくないという人には、自転車やバイクを使ってこの独特な路地を探索するのがおすすめです。台北にはYouBikeという優れた公共レンタサイクルシステムがあり、あちこち移動するのに最適です。李さんは通常バイクで移動し、あちこち飛び込んでは、そこでお店を経営する人たちに話を聞くそうです。「この街の若い人たちは企業化することを拒み、結果的にオーナーが自ら経営する小規模のカフェ、ブティック、ギャラリーが増えました」と李さんは話します。街の持つエネルギーやユニークで芸術的なお店といった街の個性に触れるためにも、ゆっくりと街に「触れ」て見てください。
味わう(TASTE)
「熱炒(ラーチャオ)というお店は台湾の代表的な料理で、私たち台湾人が友人たちと集まる際に利用するシンプルなビアホールです。冷たいビールが注がれ、スタッフが炒め物をテーブルに運び始めると、気分も盛り上がり騒がしくなっていきます。台湾人は食材の新鮮さを強調しますが、鮮度や品質の高さを考えると、こうしたお店の価格は信じられないほど安いです」。
中でも李さんが特におすすめするお店は、國父紀念館(グォフージーニェングアン)近くにある小林海産(シャオリンハイツァン)です。新鮮な海の幸を専門に扱うお店で、熱炒のメニューは非常に幅広く、小エビの炒め物、カキとタマネギの炒めもの、豚ネックといった料理は、地元の人たちに友人や家族と一緒に食卓を囲み楽しむ機会を与えます。
李さんは他にもお気に入りのカフェでリラックスし、少し本を読んで、台北の人々の交流の美しさを観察するのが好きだと教えてくれました。また、台北でチェーン展開をしていない経営者たちは他に類を見ない味覚体験をさせようと努力しています。華山1914文化創意産業園区(ホァーシャンウェンホァチュアンイーツァンイェユェンチュー)にあるTrio Caféはカフェ、バー、レストランが組み合わさったお店で、より美しさを求める人におすすめです。
最後に李さんは「訪れた人たちが忙しくも幸せを感じるのに十分なものが台北にはあると信じています。また、私たちは広い世界の中にある台北という小さなコミュニティについて学びたいという人を歓迎します」と話してくれました。
***この記事はTAIPEIより転載許諾を得て使います。
オリジナルのコンテンツはtravel taipeiにて掲載しています。